インタビュー
2014/02/21
「人を中心とした6次産業化を目指して」 株式会社BOLBOP代表取締役社長茂木崇史
BOLBOPでは、気仙沼にある牡蠣養殖会社「盛屋水産」の6次産業化をお手伝いしています。ゼロからスタートしたこの事業ですが、2013年には盛屋水産で25人の雇用を生むまでに成長しました。この活動をサポートする中で見えてきた『小さな生産者における6次産業化のありかた』について、BOLBOP代表の茂木崇史が語ります。
※6次産業化とは、農林水産省によれば、「地域の第1次産業とこれに関連する第2次第3次産業(加工・販売等)に係る事業の融合等により地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を行う取組み」と定義されています。牡蠣の生産のみに従事していた(1次産業)盛屋水産が、水産加工品の製造(2次産業)、水産加工品の販売や民宿業(3次産業)を融合した事業展開を進めるまでの一連の流れを一緒に取り組んでいます。
Q.盛屋水産の6次産業化をサポートすることになったきっかけを教えてください
この動きがスタートした2013年初頭は、私が被災地に足を運ぶようになってから約1年半が経った頃でした。ちょうど補助金などが切れて、被災地から人が離れていく動きが出始めた時期です。復興への道のりは道半ば。まだまだ人の流れを途切れさせてはいけないタイミングでした。そんな中で、被災地との継続的な関係づくりの重要性を痛感していました。継続的な関係をつくるためには事業として成り立たせなくてはいけません。私もそれまでは個人事業に近い形で活動をしてきましたが、新たにBOLBOPを設立して、継続的な関係性を事業を通じて生み出す方法を考えていました。幸いなことに、株式会社ルミネ様の社員旅行を気仙沼でコーディネートしたことをきっかけに企業単位で人を連れて行く事業に可能性を感じ始めていました。被災地に行く「きっかけ」を求めている人が東京などにはまだまだいることに気付いたのです。そこで、私のこれまでの専門性を活かした企業向けの合宿研修の事業を気仙沼で興し、民宿を始めようとしていた盛屋水産を、宿泊の拠点にすることに着目しました。6次産業化を始めようとしていた盛屋水産と、ビジネスとして継続的に人を気仙沼に連れてくる事業を始めようとしていたBOLBOPの、双方の想いが重なった事により、一緒に事業を進めることになりました。当初は一緒に研修プログラムを提供する形からのスタートでしたが、徐々に6次産業化そのものにも一緒に取り組むようになりました。
Q.盛屋水産にとってはなぜ6次産業化が重要だったのでしょうか?
まず第1に「雇用を増やして守りたい」という盛屋水産の強い想いがありました。6次産業化をすることで「牡蠣などの海産物をつくる仕事」「それらを加工する仕事」「それらをふるまう民宿を運営する仕事」で地元の方を雇用することができます。 第2に、震災後に生まれた人のつながりを守っていきたいという想いがありました。震災後の盛屋水産とそこに訪れたボランティア達の間には家族のようなつながりが生まれました。また帰って来てほしいというという盛屋水産の想いが民宿業につながり、ボランティア達の盛屋水産を応援したいという想いが水産加工品の開発につながりました。宿泊中のリアルな接点を活かして人のつながりを強めることが、2つの流れに継続性と更なる好循環を生み出します。人のつながりができれば、また会いに来たいと思います。人のつながりができれば、あの人から買いたいという気持ちが生まれます。被災して観光資源が失われてしまった気仙沼において最大の資源が「人のつながり」だということが見えてきた訳です。もしも、盛屋水産のような小さい生産者単位での6次産業化が成功すれば、日本におけるあらゆる生産者にとっての希望になるとも考えています。
Q.6次産業化をする上での課題を教えてください
盛屋水産の6次産業化は、震災後に盛屋水産を支えた様々な方の力で動き始めました。しかし、これまでの盛屋水産は「牡蠣をつくること」の1点にのみ、取り組みつづけてきたため、新しいチャレンジではたくさんの課題が生まれてきました。大きく分けると「商品開発」「販路開拓」「ビジネスオペレーション」「ビジネスモデルづくり」の4つの箇所です。このうちのいくつかは現在も課題解決に向けて取り組み続けています。売れる商品をどうつくるかわからない、販路開拓のために営業にいく時間がない、請求書などの送り方がわからない、どうしても安売りしてしまう。このような課題に対して、弊社のメンバーがこれまでのビジネス経験を活かして一緒に取り組みました。具体的な成果としては、秋葉原に新設された地方の特産品を扱う百貨店「CHABARA」の中の気仙沼アンテナショップ「気仙沼波止場」でボイル牡蠣を取り扱ってもらったことを皮切りに、東京ベイ・クルーズレストラン「シンフォニー」のランチや東京ドームホテルレストラン「リラッサ」のディナー用に継続可能な価格で海産物を取り扱ってもらえるようになりました。
Q.盛屋水産にとって6次産業化した効果を教えてください
2013年度には25人の雇用を生むことができました(参照:【Interview】「ゼロの状態から25人分の雇用をつくることができました。」有限会社盛屋水産菅野一代さん)。その他に「お客さんの目線を知ることができた」「一流のお店にも卸せることで、生産者として誇りを持てるようになった」と、盛屋水産で働く方々からお声をいただいています。何より継続的なお客様につながる盛屋水産のファンが拡大したことが最大の成果だと思います。
Q.企業にとって被災地で企業研修をおこなう意義は?
まず、研修を作るにあたって、企業に人材育成予算を使って来てもらう以上、企業にとっての人材育成テーマに合致したものに仕立てる必要がありました。その中で辿り着いた答えが「リーダーシップへの目覚め」をテーマにした研修です。対象はマネージャー1歩手前の人材であることが多いのですが、参加者には、被災地という非日常的な空間で、被災地の本物のリーダーと対話をして、学習理論に基づいて自身を振り返っていただきます。これをビジネススクールのプロフェッサーレベルがファシリテートをする形で、プログラムを進行します。盛屋水産の一代さんも本物のリーダーの一人です。津波により牡蠣の養殖施設がすべてなくなってしまったゼロの地点から、養殖業を再建しただけではなく、6次産業化という新しい試みにチャレンジして、地元の雇用を生み出しています。そんな彼女から、大企業のエリートコースを歩む人材も多くのリーダーシップを学ぶことができます。リーダーとは様々な葛藤の中で自身の信念に従って決断することを求められます。震災という大きな困難の前で生き抜いてきたリーダーの生き様を通して、参加者は自分自身の信念と向き合わされます。そのような経験をできるのは被災地ならではだと思います。被災地は見せ物ではないと言う人もいるかもしれませんが、参加者に震災のことを語り、地域の魅力を肌で感じてもらう事が、リーダーにとっては自身の誇りにもつながります。民宿に来てお金を使っていだたくだけでも支援につながります。
Q.BOLBOPの今後の動きを教えてください
盛屋水産の「集客の強化」「商品開発力の強化」「ファンコミュニティの構築」の3つに着手していきます。この6次産業化への取り組みで「人」が最大の起点になることを明確に見出すことができました。地域の資源としての「人」に注目し、6次産業化の起点となる「人」のつながりを作り続けることにこだわります。そういう意味では、研修はその一つの手段です。大事なのは1回の接点で終わらせないことで、ファンとの関係性をいかに継続させるのか。今後はファンのコミュニティをどう活性化していくのか、にも取り組んでいきたいと思います。そして、その成功事例を基点に気仙沼全体やその他の地域にもこのモデルを拡げていきたいと思います。